性的な成人年齢と性的合意年齢

よくフランスで性的合意年齢は15歳だという日本の報道等々見かけるんですけど、そうだったっけ?と腑に落ちなかったんですね。というのも、確か2年前の政権(第2次フィリップ内閣)は性的合意年齢を設定する法案を出そうとしたけれど、それが憲法評議会で違反だとされてできずに、別の形の法案を通したという話だったというように記憶していたからです。そして、先日、フランスの上院で「未成年性的合意年齢を13歳に設定」するという法案が提出されたらしく、私はさらに頭が混乱しました。

今回の法案ではちゃんと明確に「同意年齢」を設定してそれ未満の子どもに対する性行為は「刑事罰を喰らう違法行為だ」という形にしないといかんだろうという意図らしいのですが…となると、そもそも、フランスでは同意年齢は法律化されてなかったの?ってことなんですよ。というわけで、この説明を読みました。

こういうことらしいんですね。

まず、現時点でフランスでは性的合意年齢は、性的合意年齢という言葉では法律化されてません。「性的な成人年齢」も刑法に記載されている言葉ではない。
ですが、刑法以外の法律によって、15歳以上の未成年は成人(18歳以上)と性的関係を持ってもよく、それにあたって明確な合意をする能力があるとみなされているわけです。

一方で、成人は15歳未満の子どもと性的関係を持つ「権利」はありません

したがって成人が15歳未満の子どもと「単に」性的関係を持ってしまった場合、合意の有無に関係なく、フランスの法律上「性的な侵害行為」つまり軽犯罪とみなされるので(重罪の場合とは裁判が行なわれる裁判所が違うとか、当然量刑が全然違ってきます)、その罪で裁かれる場合はだいたい禁固7年ぐらいで…済みます。でもその罪に問われるのは、その行為がどこをどう見ても明らかに虚言で存在していなかった場合を除けば「確実」。

といっても、もちろん性行為が強制的、つまり暴力、脅迫、あるいは不意打ち等によって行為が行なわれた場合は、性暴力いわば挿入を伴う未成年に対するレイプとして裁かれるので、認められればだいたい禁固10年から20年ぐらいになります。そのうえ、もしこれが尊属関係にある人によって犯される、つまり近親相姦の関係において行なわれるのならば、もっと刑が重くなる
で、これらは重罪になるので、裁判の審議もかなり綿密に行なわれますから、刑の確定まで時間がかかります(フランスでの裁判時間のかかり具合は日本の比じゃないかも)。そのうえ、軽犯罪なら刑が確定しやすいのに、かえって重罪で裁かれるがゆえにその罪の認定が確実ではない(証拠が不十分とかでその罪に相当しないとみなされてしまう可能性が高くなる)という問題がよく起こる…。

よし、ここまではだいたいわかりました。

そこで2017年の第2次フィリップ内閣(現在の第1次カステックス内閣の前の内閣)のいわば男女平等参画担当大臣だった当時のマルレーヌ・シアッパ大臣が「15歳未満は合意する能力がない」という趣旨の法案を提出しようとしたんです。

あらゆる性的な挿入を伴う行為は、それがどのような性質のものであれ、成人によって15歳未満の未成年に行なわれた場合、その行為の主が被害者の年齢を知っていたならば、あるいは知らなかったということがありえない状況ならば、レイプとしてみなされる。

…的な内容にしたかったらしいんです。で、憲法評議会でそれを法律にするのは無理筋ですと却下されました。その根拠としてあげられたのが、当初17歳と14歳の未成年同士で仲良くセックスをしていたのに、それが17歳の子が18歳になったとたんに法律上レイプ扱いになってしまうわけだから、それってどうよっていうケースらしく…。確かに、他の国で性的合意年齢が法律化されている場合でも、年齢差がないとか年齢が近い場合はその刑罰対象から外すとかあるらしんですけどね…。

そこで性的な合意ができない年齢を15歳未満に設定するという趣旨の法案を出すのは断念して、言ってみればレイプとか性暴力の定義をもっと加害者にとって厳しくする趣旨の法案にして、最終的に法律になりました。通称シアッパ法と呼ばれるものです。

レイプあるいは性暴力としてみなすことが可能な性行為の強制とは、性行為に合意するための分別(判断能力)をもたない被害者の脆弱さを悪用していることによって特徴づけられるものである…

…といった内容。

つまり相手が何歳だったからどうこうというんじゃなくて、レイプとはなんぞやという行為の質を定義づけた法律になったわけです。それが2018年の夏に制定された法律でして、それが現時点での状況。

ところが、このシアッパ法、もちろん非難もたくさん浴びることになります。結局のところ、その「被害者には判断する分別がないという事実を証明するのが被害者側になってしまうから」ということで。

そんななか、フランスでは #MeTooInceste 私も「インセスト」の被害に遭ったことがある!というTwitter上での告白ムーブメントが今年に入ってから起こりました。
そもそも、そのきっかけはまあこういうこと。

…ここでちょっと話がそれますが、実は私と似たような疑問をネタにしたルモンド紙の風刺画がものすごく非難を浴びて、編集長が謝罪するまでに至りました。

その風刺画ではペンギンの子どもが大人ペンギンにこのように尋ねています。

もし僕が、トランスジェンダーでお母さんになったお父さんのガールフレンドの養子にあたるハーフブラザーに虐待されたら、それって「インセスト(近親相姦)」なのかな?

で、その作家は編集部が自分に意見を求めず勝手に謝罪したこと(言論の自由が担保されてない)に抗議してルモンド紙との契約は切るとかなんとか言い出しまして、論戦になり、それがまだ続いているようなのです。その状況を知った私は「こういった疑問って疑問のレベルであっても公共の場では口に出すと他人の心を傷つける行為になっちゃうんだな…」とちょっと動揺しています(その割にはツイート貼っちゃってるけど)。

閑話休題。

で、まあその#MeTooIncesteブームによって、もはや10人に1人は「インセスト」の被害者であると言われるなか、たとえば大統領夫人のブリジット・マクロンさんもこの状況を放置してはいけない等々おっしゃったり、昨日に至っては大統領ご本人まで「こういう告白をするのは勇気ある行為だ。いまわれわれは行動を起さねばならぬ」等々ネットで訴えるようになりました。

そりゃほんとごもっともでその通りなのですが、だったらもっと法律で厳しくしてよ!って話になりますよね。
たいていそうした「身内の年上(成人とはかぎりませんよ、10代の身内という例もたっくさん、お兄ちゃんから襲われたとかいう証言ね。あとやっぱり夏休みに親戚が集まって…とか)」から性暴力を振るわれた証言を読んでいきますと、ほんと被害を受けた年齢が13歳前後だったりするんです。

で、そうしたムーブメントに乗って冒頭の上院ですね、が先日、
「性的合意年齢を13歳に設定する(つまり13歳未満に対する性行為は犯罪として刑法で罰せられる)」という法案を出したわけです。

でもそれだって反対する人はいる。13歳なんて年齢設定が若すぎる。15歳だろうって。

…さて、私の結論として何がっていうわけではないのですが、この先フランスでは何歳にせよ「性的合意年齢」が法律化されて、それに達していない場合は犯罪化されることになるのかは注目しております。

追記:その後フランスでは性交同意年齢は13歳ではなく15歳に設定されました。ただし、次のような条件らしい。

15歳未満との性行為について、両者の年齢差がわずかでない限りレイプとみなされて20年以下の禁錮刑になります。そのわずかな年齢差というのは5年。

インセストの場合、同意年齢は18歳。

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Rie K. Matsunaga

松永りえ/本業は自宅警備員ですが、ときどき在宅で書籍翻訳やってます。https://linktr.ee/rkmatsunaga